アナザー・デリラ

聞き間違いかと思った。

フィンは勝ち誇ったような顔をしている。自信満々だ。まるで、デリラの冷酷で計算高い心を解き放つための、古代の秘密結社の暗号か何かを解読したとでも言いたげな表情だ。

「リハーサル・ディナーで、私にキスしたいってこと?」と私は尋ねた。

「ああ、そうだ。男とキスしたことくらいあるだろ?」

私は思わず身を引いた。

「ああ、そうか。兄貴と寝たんだったな。忘れるところだった。もっとも、二人とも他のことに忙しくて、キスする暇もなかったかもしれないけどな。それなら俺が手本を見せてやらないとな。本番でリアルに見えるように」

私はただ彼を睨みつけた。怒りがふつふつと湧き上がってく...

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