第3章 禁忌魔法の汚名
魔獣訓練場の透明な結界内では、温順なユニコーンが草地の上をのんびりと闊歩していた。生徒たちはちらほらと防護柵のそばに集まり、魔獣使いの授業が始まるのを待っている。
遥は観察台の片隅に立ち、場内の魔獣をじっと見つめていた。
昨日の導師からの拒絶を受け、失意の底にいた彼女は、それでもなお自分を証明したいと渇望していた。
「皆、注目。今日は魔獣との精神接続の確立方法を学ぶ」導師の声が訓練場に響き渡る。
まゆが真っ先にユニコーンへと歩み寄ると、その指先から金色の聖なる光が柔らかく流れ出した。
「いい子よ、怖がらないで……」
まゆは優しくユニコーンのたてがみを撫でる。
ユニコーンは心地よさそうに低く鳴き、その瞳は信頼に満ちていた。周囲から感嘆の声が漏れる。
「まゆの魔法は本当にすごいわ!」
「ユニコーンは純粋な魔法が大好きだからね!」
遥がぐっと拳を握りしめたその時、ふと空気中の異変を察知した。
不気味な魔法の波動が、密かに渦巻いている……。
バンッ!
防護柵が突如として砕け散った!紫色の光が雷のようにユニコーンの瞳を貫く!
「逃げろ! ユニコーンが暴走したぞ!」
悲鳴が訓練場に響き渡った。それまで温順だったユニコーンは両目を紫に光らせ、狂ったように生徒たちの群れへと突進する!
まゆは突き飛ばされて地面に倒れ、腕には瞬く間に三条の紫黒い血の痕が刻まれた。
「全員下がれ! 緊急防護結界を起動しろ!」
訓練導師が慌てて杖を振るう。
混乱の中、遥は本能的に助けに入ろうとしたが、周りの生徒たちの怯えた視線にその場で釘付けにされた。
「どうして……どうして急に……」
まゆは地面に倒れたまま、暴走するユニコーンを弱々しく見つめていた。
十分後、調査員が現場に駆けつけた。
古めかしい魔法検知器が訓練場内をゆっくりと回転し、甲高い警報音を立てる。
「ここに強力な闇系魔法の痕跡がある」
調査員の顔つきが険しくなる。
「しかも禁忌級の精神操作だ」
全員の視線が一斉に遥へと注がれた。
「精神操作?」
遥は驚いて一歩後ずさる。
「そんな魔法、習ったこともありません!」
「だが、現場にこれほど強大な闇の魔力を持つ者は君しかいない」
調査員は冷ややかに言い放った。
ソウシ王子が慌ただしく駆けつけ、傷ついたまゆの姿を見て、その目に怒りの炎を燃え上がらせた。
「遥! なんてことをしてくれたんだ!」
「やってない! 私は絶対にまゆを攻撃したりしてない!」
遥は絶望的に弁解した。
しかし、彼女を信じる者は誰一人いなかった。
学院医療室では、純白の治癒術がまゆを優しく包み込んでいた。医療魔法師、導師、そして生徒代表たちがベッドの周りを囲んでいる。遥は対質のためにその場に呼ばれ、人垣の一番外側で、全員の敵意に満ちた視線を感じていた。
「皆さん、ご覧ください」
まゆは弱々しく腕の包帯を解いた。
三本の平行した紫黒い印が、彼女の雪のように白い肌に痛々しく焼き付いている。
「これは間違いなく闇系の攻撃魔法による痕跡ですね」
医療魔法師が断定する。
「しかも術者の魔力は相当に強大です」
ソウシが拳をゴキリと鳴らした。
「遥! よくも自分の妹にこれほど酷い真似ができたな?」
「どうして……お姉様が私にこんな魔法を使ったのか、分かりません……」
まゆは目に涙を浮かべ、か弱く見せた。
「違う!」
遥は必死に叫んだ。
「私は絶対にまゆを攻撃していない!」
シルフィ先生は首を振る。
「ですが、現場の魔法痕跡はあなたの魔力と完全に一致しています……」
まゆは泣きながら言った。
「もしかしたら……お姉様は魔力を試したかっただけで、私を傷つけるつもりはなかったのかも……」
その「お姉様」を庇うかのような姿は、さらなる同情を誘った。
これは罠だ……。でも、どうやって身の潔白を証明すればいい?
会議ホールでは、生徒会役員と導師たちが集まり、予備調査が行われていた。遥は中央に立ち、四方八方から投げかけられる疑いの視線を受け止めていた。
「現存する証拠に基づき、桐島遥生徒に重大な嫌疑があることは確かです」
生徒会長が調査結果を読み上げる。
遥が弁解しようとしたその時、聞き覚えのある声が突然響いた。
「ごめんね、遥……でも、本当のことを言わなきゃ」
遥は信じられない思いで振り返ると、唯一の親友であるあかりが苦しそうに立ち上がっていた。
「あかり? 何を言っているの?」
あかりは彼女の視線を避ける。
「私、遥が夜中に闇魔法の練習をしているのを何度も見たの。それに……それに、あなたは何度も私にまゆさんの愚痴をこぼしていたわ」
雷に打たれたような衝撃だった。
「まゆを傷つけるなんて話、一度もしたことない!」
「『どうして皆あの子に騙されるんだろう』って言ってた。『あの子が、本来私に属するはずの全てを奪っていった』って……」あかりの声は苦しみに満ちていた。
ソウシが冷たく彼女を見つめる。
「遥、事実はもう明らかだろう」
遥は世界そのものが崩れ落ちるのを感じた。
「あかり……」
あかりは目を閉じる。
「私……これ以上、誰かが傷つくのを見たくなかっただけなの」
どうして……どうして、たった一人の友達まで私を裏切るの?
規律委員会の執務室。威厳のある円卓の周りには、五人の上級導師が座っている。壁には学院の歴代院長の肖像画が掲げられていた。委員会主席が厳粛に告発状を読み上げる。
「桐島遥、君は禁忌魔法を用いて学友を傷つけたと告発されている。証拠は明白だ」
「信じてください、私は本当にそんなことはしていません!」
遥は最後の抵抗を試みる。
「現場の魔法痕跡、被害者の証言、目撃者の証言、証拠の連鎖は完全に揃っている」
委員会メンバーAが冷淡に告げた。
「さらに深刻なのは、明確に禁止されている精神操作魔法を使用した疑いだ」
委員会メンバーBが付け加える。
委員会主席が審判の槌を鳴らした。
「三日後に正式な審判を行う。それまでの間、君の行動は制限され、魔法の使用を禁ずる」
「審判だとしても、自分のために弁護する機会くらいは与えられるべきでしょう?」
遥は絶望的に問うた。
「審判の場で弁護することはもちろん許される。だが、合理的な説明を用意しておくことだ」
重厚な扉が背後で閉ざされ、遥はがらんとした廊下を一人歩いていた。
三日……。身の潔白を証明するのに与えられた時間は、たった三日。
でも、この誰もが私を有罪だと決めつけている世界で……一体どうやって潔白を証明すればいいのだろう?







