第27章 こんにちは、田口莉奈です

梅原晴琉は黒のスーツに身を包み、背筋を真っすぐに伸ばしたまま田口家のリビングへ足を踏み入れた。長い脚で歩を進めるたび、ひんやりとした「近寄るな」の気配が空気を切る。

その背後で、田原匠真が高そうな贈答品の袋を両手に提げ、内心びくびくしていた。――このあと晴琉が婚約破棄を切り出したら、場が修羅場になる。下手をすれば血の雨だ。

「こんばんは。田口さん、綾子さん」

淡々とした声。丁寧ではあるが、距離がある。親しみの色は微塵もない。

両家には昔から縁談があった。けれど梅原晴琉が田口家の敷居を跨ぐのは、これが初めてだった。田口宏明夫妻とも、正直ほとんど面識がない。

「晴琉くん、よく来てくれた...

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