第75章 江川莉奈はピアノを弾けるはずがない

江川琉衣の声はやたらと大きく、ピアノコンテスト会場は沸騰したみたいに、かつてない熱気に包まれた。

ざわめきは途切れない。観客の視線は、江川莉奈と、世界的なピアノの巨匠フェンディのあいだを忙しなく往復する。

誰が想像しただろう。たかが決勝戦が、ここまで面白い展開になるなんて。

噂が噂を呼び、空気がさらに過熱した、その瞬間。

「パンッ!」

乾いた平手打ちの音が、会場のざわめきを真っ二つに裂いた。

江川琉衣の頬に、くっきりと指の跡が浮かぶ。

江川琉衣は頬を押さえ、驚きと怒りで声を裏返らせた。

「……あんた、あたしを殴ったの!?」

スポットライトの中心に立つ江川莉奈は、眉と目元に氷...

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