第9章
英一郎の顎に力がこもる。「もう十分だ」
「それでもあなたは私のベッドに来た。私にキスして、触れて、愛してるって言ったじゃない」翼の声がだんだん力強く、自信に満ちたものになっていく。「私が何者か知っていながら」
「任務だったからだ」
その言葉に、翼は鋭く、そして苦々しく笑った。「任務だって。私はあなたにとって、それだけの存在だったの? 私たちが一緒に過ごした夜も、全部あなたの任務の一部だったっていうわけ?」
ナイフの動きはあまりに速く、ほとんど見えなかった。次の瞬間には、翼が話すのをやめ、その喉元に刃が押し当てられていた。刃が肌に触れた箇所からは、すでに一筋の血が薄く滲んでいる。...
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