第11章

玄関で靴を脱いでいると、高嶺晴人が壁に寄りかかり、なんとも言えない嫌味な目つきで私を横目で見ていた。

彼はわざとらしく語尾を伸ばし、芝居がかった口調で言った。

「あ~結衣~、俺はやっぱりお前を諦めきれないんだ~」

私は能面のような無表情を崩さず、努めて自然に彼の茶番を遮った。

「お母さんが和菓子作ったって。食べに来てって」

さっきまでの熱演はどこへやら、彼は瞬時に背筋を伸ばした。

「行く!」

「天才音楽家・高嶺晴人、ソロコンサート開催」

そのニュースは瞬く間にトレンドを席巻した。

東京にいる友人から、興奮で裏返ったような声でLINE通話がかかってきた。

「お願...

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