第61章 胎児が少し危険

彼は丁寧に彼女の濡れた髪を耳の後ろに掻き上げ、指先で優しく頬を撫でた。

「村上さん……」

彼はまるで聞こえなかったかのように、ずっと松本由美を見つめていた。

救急車のサイレンが鳴り響いてようやく、彼は立ち上がり、彼女を抱きかかえて病院へ急いだ。

村上龍平は自分の体もびしょ濡れであることをすっかり忘れているようだった。

医者は松本由美を救急処置室に運びながら尋ねた。「水に落ちたのですか?」

「はい」村上龍平は答えた。

「普段から何か急性疾患はありますか?家族からの情報が必要です」

彼は一瞬躊躇した。松本由美の身体状況について、彼は何も知らなかった。

医者は急かした。「早く言っ...

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