第2章

翌朝、目を覚ますと首は凝り固まり、目の下には濃い隈ができていた。昨晩のあの音が、頭の中で何度も再生される。うとうとしかけるたびに、あの苦しげな呻き声がまた聞こえてくるのだ。

もしかしたら、咲紀の言う通りなのかもしれない。考えすぎなだけなのかも。

でも、歯を磨きながら、洗面所の窓から佐藤家の方をちらちらと窺っていた。日差しの中ではすべてが普通に見える。大きな裏庭のある、ごく普通の二階建ての家だ。

コーヒーを淹れ、キッチンの窓際に陣取る。もし後で何らかの危険な状況に足を踏み入れることになるのなら、自分が相手にするのが何なのか、知っておきたかった。

午前七時きっかりに、裏口のドアが開いた。

一人の男が出てきて、私はコーヒーマグを落としそうになった。彼は巨漢だった。身長は一八五センチは優にあり、黒髪で、いかにも格闘家といった体つきをしている。だが、私が息を呑んだのは、彼の腕や顔を覆う無数の痕だった。

真新しい痣。引っかき傷。眉にはできたばかりのような切り傷。

マジか……この男はまるで戦争帰りだ。それも、一度や二度ではない。

顔中傷だらけなのが当たり前とでも言うように、彼は何気なくストレッチをすると、通りに向かってジョギングを始めた。私は窓から身を隠し、心臓が激しく脈打つのを感じた。

あれが武田に違いない。レビューで読んだ家族の一人だ。

脳の理性的な部分が、罪のない説明を見つけようと躍起になる。スタントマンなのかもしれない。プロの格闘家とか? だが、昨晩の音と結びつくと、かなり暗い絵が浮かび上がってくる。

彼が完全に姿を消すのを待ってから、私は鍵を掴んだ。偵察の時間だ。

私たちの敷地を隔てるフェンスは、向こうの裏庭が見えるくらいに低い。郵便受けを確認するふりをしながら、フェンスの縁に沿って歩き、ちらちらと向こうを盗み見た。

そして、目にした光景に血の気が引いた。

木の枝から太いロープが垂れ下がっている。地面には重そうな鎖がとぐろを巻いている。正体不明の金属製の仕掛けもあったが、それは中世――拷問器具の中世を思わせる代物だった。

一体全体、何のジムだっていうの?

私はフェンスにそっと近づいた。裏のパティオの近く、コンクリートの上に黒っぽい染みがあるのが見えた。どう見ても血痕にしか思えない。

手が震え始めた。ここはジムなんかじゃない。これは何かの……ファイトクラブ? 拷問部屋?

だがその時、涼からのメッセージを思い出した。写真の中の彼の完璧な笑顔。彼のコンテンツのプロフェッショナルなトーン。

あんなに無垢に見える人が、本当にこんな闇深いことに関わっているなんてことがあるだろうか?

その日の午前中はずっと、佐藤家について見つけられる限りの情報をググり続けた。結果はもどかしいほどに普通だった。佐藤武昭、元軍人。佐藤美奈子、ダンスインストラクター。地元のフィットネストレーニングに関する記述はいくつかあったが、「地下暴力組織」を叫ぶようなものは何一つなかった。

午後二時になる頃には、私は本気でキャンセルを考えていた。【すみません、急用ができました】という文面を、少なくとも五回は下書きした。

でも、送信しようとするたびに、写真の中の涼の瞳を思い出してしまう。彼がわざわざ私に声をかけてきてくれたこと。もしこれが本物なら、素晴らしいコンテンツになる可能性。

それに、もし私が完全に間違っていたら? もし彼らが本当にただの熱心なトレーナーで、私が過剰な想像力のせいで絶好の機会を台無しにしようとしているだけだとしたら?

二時四十五分、私は一番良いトレーニングウェアに着替えて、隣の家に向かった。

間近で見ると、その家はさらに普通に見えた。塗りたてのペンキ、手入れの行き届いた庭、そしてドアの脇には【佐藤ファミリーフィットネス 完全予約制】と書かれた看板があった。

ノックをすると、数秒もしないうちにドアが開いた。

ヤバい……これ.......

涼は、実物の方がさらに格好良かった。写真では、彼が笑った時に緑色の瞳が輝く様子も、Tシャツが胸の筋肉に心地よく張り付く様も捉えきれていなかった。彼には、私の膝から力を奪うような、無骨さと親しみやすさの完璧なバランスがあった。

「真優さん! 時間ぴったりだね」彼の声は、わずかな掠れを含んだ温かい蜂蜜のようだった。「ようこそ、僕たちの場所へ」

「お会いいただきありがとうございます」私は、感じている以上にプロフェッショナルに聞こえることを願いながら、どうにかそう言った。

「もちろんです。あなたのコンテンツ、しばらく前から拝見していましたよフィットネスへのアプローチは、僕たちがパートナーシップに求めているものとまさに同じなんです」

彼が私のことを見ていた? 疑念を抱いていたことを考えれば不気味に感じるはずなのに、代わりに小さなスリルが私を駆け抜けた。

「さあ、どうぞ。家族を紹介しますよ」

彼は私を、ごく普通のリビングルームを抜けて家の奥へと案内した。壁には家族写真が並んでいる。何もかもが、健全なアメリカの家庭そのものを叫んでいた。

もしかしたら、本当に考えすぎていたのかもしれない。

「父さん!」と涼が呼びかけた。「真優さんが来たよ!」

キッチンらしき場所から一人の男性が現れ、私は昨晩の声の主だとすぐに分かった。武昭は息子より背は低いが、戦車のようにがっしりした体つきをしている。軍人らしい立ち居振る舞い、真剣な表情、敬意を払わずにはいられないような存在感だ。

「初めまして、真優さん。涼から君の仕事については色々聞いているよ」彼の握手は力強いが、骨を砕くほどではなかった。

この男が、昨晩「お前は役立たずだ」と叫んでいた人物だ。間近で見ると、厳格ではあるが暴力的には見えない。サイコパスというよりは、鬼軍曹といった感じだ。

「母さんはスタジオにいるんだ」と涼が説明し、私を改装されたガレージへと導いた。「夜のクラスの準備をしているんだよ」

美奈子は私たちが入っていくとストレッチをしていたが、その動きには何十年もかけて自分の身体を完成させてきた者だけが持つ優雅さがあった。彼女はダンサーがしばしば持つ、歳を感じさせない美しさをたたえ、優しい目と上品な微笑みを浮かべていた。

「真優さん! お会いできて本当に嬉しいわ。涼はこのコラボレーションのこと、一週間ずっと楽しみにしていたのよ」

彼女の温かさは本物のように見えたが、その笑顔のどこかが、私を分析しているように感じさせた。まるで、私の神経質なエネルギーを見透かしているかのように。

「それから、こっちが兄の武田だ」足音が近づいてきた時、涼が言った。

今朝の男が現れたが、間近で見る彼はさらに衝撃的だった。痣は遠くから見た時よりも濃い。顎には、昨日までは間違いなくなかったであろう真新しい切り傷があった。

「やあ。戦闘の痕跡はすまないな。昨晩は特に激しいセッションがあってね」

彼はそれをあまりにも何気なく言った。まるで怪我だらけで現れるのが当たり前であるかのように。

セッション。興味深い言葉選びだ。

「武田は、もっと……上級のクライアントを教えているんだ」と涼が説明した。「本当に自分の限界を押し広げたい人たちをね」

限界を押し広げる。彼のその言い方に、肌が粟立った。

「施設を見てみる?」と涼が尋ねた。

私は頷いたが、本能のすべてが逃げろと叫んでいた。

地下室は、事態が本格的におかしくなる場所だった。壁には見覚えのない器具がずらりと並んでいる。天井からは、外で見たあのロープと一緒に、重そうなサンドバッグが吊るされていた。中世の拷問器具に見えるが、現代的なパッドが付いた仕掛けもあった。

「ここで魔法が起こるんだ」と涼は誇らしげに言った。

壁はビフォーアフターの写真で覆われていたが、遠すぎて詳細は分からない。薄暗い照明の中では、それらは不吉に見えた。まるで記録文書のように。

「これには何が入っているの?」私は、ボトルや容器が並んだ棚を指さして尋ねた。

「サプリメント、プロテインパウダー、回復ドリンクだよ。父さんは栄養に関してはかなりうるさいんだ」

ボトルには手書きのラベルが貼られていたが、はっきりとは読めなかった。いくつかは医薬品のように見えた。他はただ、怪しげに見えた。

「そして、もし僕たちと組むことになったら、君がトレーニングする場所がここだ」と涼は、中央の空いたスペースを指して言った。

トレーニング。拷問部屋のように見える場所のど真ん中で。

だが、涼が語る様子はすべてがごく普通だった。とてもプロフェッショナルだ。彼は心からの熱意をもって様々な器具を説明し、正しいフォームを実演し、まともなトレーナーなら誰でもするようにトレーニング哲学を語った。

私はおかしくなってしまったのだろうか? これは本当に、ただの超本格的な家族経営のジムなのだろうか?

「それで、どう思う?」ツアーを終えた時、彼は尋ねた。

「うん……素晴らしいわ」私は正直に言った。その設備は、恐ろしく見えるとしても、間違いなくプロフェッショナルなものだった。

私たちは階段を上って戻り、私は自分の疑念を馬鹿らしく感じ始めていた。昨晩のあの音は、本当に正当なトレーニングだったのかもしれない。武田の怪我は、格闘技の試合によるものなのかもしれない。私はトゥルークライムのドキュメンタリーを見すぎたのかもしれない。

涼は私を玄関まで送ってくれ、私はもうほとんど、何もないことで神経質になっていただけだと確信しかけていた。

その時、彼はあの完璧な笑顔で私の方を向き、こう言った。「体験ワークアウトを試してみない? 今すぐ、僕がパーソナルセッションをしてあげるよ」

頭の中のすべての警報が再び鳴り響き始めた。今すぐ、一人で、あの地下室で……

しかし、彼の緑色の瞳を見つめ、彼の体から放たれる温かさを感じ、彼の顔に浮かぶ純粋な興奮を見て……

脳は危険だと言った。

心ははいと答えた。

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