第60章

オリヴィア視点

沈黙が落ちたあと、医師は眼鏡を指で押し上げ、やけに真面目な目で私を見た。

「ボスはこれまでいろんな女性を連れてきました。俺も、その……ケガの手当てはよくやってましたけど、妊婦健診は初めてです」

脇に立っていたダミアンが、軽く咳払いをする。次の瞬間、声の温度が一気に下がった。

「採血が終わったら帰れ。ここはお前の出番じゃない」

医師はようやく失言に気づいたらしく、手元の動きが途端に早くなる。

救急箱を抱えて出ていく背中を見送りながらも、私はまだ、さっきの言葉の余韻から抜け出せずにいた。

そのとき、視界の端にダミアンの指先が割り込んだ。ぱちん、と軽薄なくらい軽い指鳴...

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