第104章 あなたは黒崎社長の奥様?

黒崎雅美はローテーブルの袋から、さらにもう一本口紅を探り当てると、キャップをひねって開け、そのまま差し出した。

「そうだ、もう一つ」

水野菜々美は受け取らない。視線はスマホ画面の発表会動画に貼りついたままだ。

「グランドレジデンスのほう、部屋が一つ空いたの」黒崎雅美は爪先でテーブルを、こつこつと叩く。「もう話はつけてある。1LDKで階は高くないけど、立地は最高よ。エントランス出て花壇を一つ越えたら、黒崎逸臣の棟」

水野菜々美の指が、ようやく画面から離れた。

「あと二日もあれば引っ越せる」黒崎雅美は口紅を彼女の手に押し込む。「早く移れば、そのぶん早く――」

「早く、何?」水野菜々美...

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