第142章 難癖をつける

夏目霧子はその場に立ち尽くし、無意識に指先で袖口をきゅっと握りしめた。

黒崎逸臣なら断れる。

けれど、黒崎昌仁は別だ。

夏目霧子は長いこと黙っていた。

リビングにいる数人も誰ひとり口を開かず、彼女の返事を待っている。

黒崎逸臣も急かさない。玄関の壁にもたれたまま、瞬きひとつせず霧子を見ていた。

やがて、夏目霧子はふいと顔を背ける。

「青真」

次の間から萩原青真がひょいと顔を出した。

「はい」

「荷物、まとめて」

萩原青真は短く返事をして、手際よく寝室へ入っていく。

葛西執事の笑みが、さらに深くなった。背後の者たちへ目配せすると、数人がすぐさま部屋に入り、手伝いを始める...

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