第150章 救いきれなかった

瀬戸康平の言葉が落ちた瞬間、回廊の空気が、さらに数度冷えた。

黒崎逸臣は顎のラインをきつく張り、目の前の見知らぬ男を射抜くように睨みつける。

「……なんでだ」

掠れた声。口の中に鉄の味が広がっている。

「俺は――彼女の夫だ」

長椅子にへたり込んでいた萩原青真が、その一言で跳ねるように立ち上がった。

全身血まみれで、両手が止まらないほど震えている。

「夫?」

萩原青真は黒崎逸臣の鼻先を指さし、声を荒げた。

「黒崎逸臣、恥ってもんがないの! あんたたち、1時間前に裁判所でサインしたばっかでしょ! どの口が『夫』なのよ!」

萩原青真は駆け寄り、黒崎逸臣の胸を力任せに押し返す。

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