第175章 訴えの取り下げ

木下拓真は腰を折って床に散らばった書類を拾い集めた。手がひどく震えている。

――この裁判、どうやって戦えっていうんだ。

原告が訴えている相手は、社長が命懸けで探し続けてきた人物。

被告が「盗作だ」と指摘されている絵は、被告本人の作品。

裁判官がもう一度、木槌を打った。声には苛立ちが滲む。

「原告側代理人、あなたの依頼人は――」

「取り下げます」

黒崎逸臣が、ようやく口を開いた。

喉に砂でも詰め込まれたみたいな、ざらついた声だった。

原告側の弁護士が、はっとして振り向く。

だが黒崎逸臣は弁護士を見ない。視線は一瞬たりとも、夏目霧子から外れなかった。

「取り下げると言った」...

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