第32章 温かい時間の後の、激しい口論

そのとき、夏目霧子の胃の奥が、ぐるんとひっくり返った。

霧子は咄嗟に黒崎逸臣を突き飛ばし、口元を押さえたまま、よろめくように洗面所へ駆け込む。

冷たい洗面台の縁に両手をつき、指の関節が白くなるほど力を込めた。

胃がきゅうっと痙攣して、込み上げてくる吐き気が、どうにも押さえきれない。

突き飛ばされた黒崎逸臣は一瞬、呆けたように立ち尽くした。

だがすぐ我に返り、大股であとを追う。

薄く震える背中を見て、彼の目の奥にかすかな痛みが走る。そっと手を伸ばし、背中を軽く叩いた。

「どうした」

夏目霧子は蛇口をひねり、冷水をすくって顔にばしゃりと浴びる。

水滴が青白い頬を伝い落ちるのを、...

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