第54章 強引なキスで噛まれる

黒崎逸臣は勢いよく手を離し、「っ……」と痛みに息を吸い込んだ。

手を上げ、指先で下唇をなぞる。指の腹に、目に刺さるような赤がにじんでいた。

「霧子……お前、犬か?」

低く沈んだ声。

夏目霧子の胸は激しく上下していた。くしゃくしゃにされた襟元を整え、乱れた髪を耳にかける。

「黒崎逸臣、発情するなら場所を選んだら?」

声を落とす。

「下には黒崎家の客が山ほどいる。取引先も、マスコミも、親戚も。ここで暴れたら、黒崎家の恥が足りないってこと?」

黒崎逸臣が大股で詰め寄り、両手をドア板についた。再び、彼女を狭い空間へ閉じ込める。

「誰が入ってくる」

彼は彼女を見据えた。喉仏が上下す...

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