第68章 彼女に子どもを堕ろさせる

夏目霧子は、水野菜々美が自分のバッグのストラップを掴んでいる手を見つめた。避けもしない。振りほどきもしない。

「放して」

たった一言。重くも軽くもない声。

けれど水野菜々美は放さなかった。指先が白くなるほど力を込め、ストラップを死ぬほど握り締めている。

「答えて。お腹の子……逸臣の子なの?」

夏目霧子は彼女の手を一度だけ見下ろし、ゆっくり顔を上げた。

「そう」

その一言が落ちた瞬間、水野菜々美の全身が硬直した。

回廊を看護師がワゴンを押して通り過ぎ、揉めている二人を好奇の目でちらりと見た。

水野菜々美の指が少しずつ緩み、ストラップが指の隙間からするりと滑り落ちる。

「何週...

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