第81章 彼女は私の命を救ったことがある

夏目霧子はむっとした顔で彼をにらみつけた。

「まだ冗談言う余裕あるんだ」

黒崎逸臣は軟膏の蓋をきゅっと締め、ポケットにしまうと、ついでみたいに彼女の無傷のほうの頬を指でつまんだ。

「冗談でも言わないと、君、すぐ泣くだろ」

「誰が泣くの」

夏目霧子はその手をぱしっと払いのける。

数秒迷ってから、それでも彼の袖をぎゅっと掴んだ。

「逸臣」

「ん?」

黒崎逸臣が眉を上げる。

「……もう、あの子のこと放っておけないの?」

黒崎逸臣は紙袋を片づけていた手を、ふっと止めた。

夏目霧子は見上げる。

「いつもそうじゃない。すぐ『死ぬ』だの『もうダメ』だの。演技だって分からない? 本...

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