第92章 妻が見つからない

黒崎逸臣は執務椅子に腰を下ろしたまま、もう十分近く、文字をひとつも頭に入れられずにいた。

机に広げた書類は、二枚めくっては閉じ、指先は無意識に天板をとん、とん、と叩く。

林田秘書は言った。霧子はおじい様と一緒だ、と。

空港へ行った。

飛行機に乗った。

――どこへ?

夏目霧子にもう一度かけ直す。やはり電源が切れている。

画面に表示された番号をしばらく睨みつけ、最後に指が止まったのは「黒崎昌仁」の名前だった。

発信ボタンの上で親指が宙に浮く。数秒、迷う。

……かけるか。

おじい様に聞けば、少なくとも彼女がどこへ行ったかは分かる。

黒崎逸臣はスマホを握り直し、結局そのまま押し...

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