第95章 お前のところにいるより、万倍マシだ

黒崎昌仁は、すぐには返事をしなかった。

数秒置いてから、ようやくゆっくり口を開く。声の調子は相変わらず、急く気配がない。

「お前ら夫婦のことに、わしは口を挟まん。ただな、霧子に仕事の話をしに行くなら、手ぶらで行って霧子と話せ。わしを当てにするな」

黒崎逸臣はスマホを握りしめ、指の関節が白くなる。

――いつ戻るんだ。

そう訊きたかった。

けれど言葉は喉元まで来て、結局、飲み込んだ。

「……分かりました」

「おじい様、いつお戻りになりますか」

受話器の向こうが、二秒ほど沈黙する。

黒崎昌仁はのんびりと茶をひと口すすってから言った。

「知らん」

「知らん?」

黒崎逸臣は眉...

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