第32章 死地を脱する

ナタリー視点

私はドア枠にもたれ、全身ずぶ濡れのまま立っていた。髪から海水がぽた、ぽたと床に落ちる。

時間が止まったみたいに、会議室の空気が固まる。そこにいる全員の視線が、釘みたいに私へ突き刺さっていた。

疲労で身体は重く、傷だらけ。薬を盛られ、崖から氷みたいな海へ飛び込まされた。

――それでも、私は死ななかった。それで十分だ。

次の瞬間、椅子が乱暴に引かれる音。ひとつの影が勢いよく立ち上がり、私に向かって駆けてきた。

エルヴィン。

目の前に来た彼は、保っていた冷静を一瞬で失い、抑えきれない歓喜が瞳に灯った。整った顔が、信じられないほど明るくなる。

私は瞬きをする。胸の奥でう...

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