第7章 密通をあばく

私の頬がかっと熱くなり、鼓動もいつもよりずっと速い。

断る理由なんてない。だからこそ、声だけは平静に整えた。

「なるべく早く選んで買って、それからあなたのところへ送るわ」

「楽しみにしてる」からかうような調子で彼は言う。「おやすみ、ナタリー」

返事をする前に、通話はぷつりと切れた。

翌朝、私はまず離婚の届け出を済ませ、そのまま車で会社へ向かった。

ビルに足を踏み入れた瞬間、空気が変わったのが分かった。

私が通り過ぎると、ひそひそ声が不自然に途切れる。哀れむような目もあれば、値踏みするような視線もある。

リリアンのことも、私のポジションが「譲られる」ことも――もう、みんな知っている。

私は背筋を伸ばし、無表情のままエレベーターへ向かった。まずレヴィに会う。正式に、この件を確認するために。

レヴィの秘書、ジュリアン・ヘイルが私に気づいた。いつもの落ち着きが消え、ぎくりとした顔でこちらへ駆け寄ってくる。

「ナタリー」焦りが滲む声。ほとんど怯えている。「アシュフォードさんは今、非常に重要な会議中です。絶対に邪魔するなと――」

「でも、今すぐ会う必要があるの」

私はジュリアンをそのまま横切り、レヴィのオフィスへ向かった。

「待ってください、ナタリー! 入っちゃ――」

止める声を背に、ドアの前まで来た、そのとき。

中から聞こえた。

リリアンの柔らかな笑い声。レヴィの低い囁き。そして胃の奥がひっくり返るほど、聞き慣れた――嫌な音。

やっぱり。

レヴィが彼女を連れてくるのは当然だ。ここへ。自分のオフィスへ。

私たちは昔、ここでよく仕事の合間にランチを食べた。出張前には必ず、ここでキスをして別れた。

でもレヴィにとって、神聖な場所なんて存在しない。

私は躊躇しなかった。ドアを押し開ける。

予想どおりの光景。けれど、予想以上に最悪だった。

巨大な窓の前に立つレヴィ。リリアンは背中を向け、冷たいガラスへ押しつけられている。頬が窓に潰れ、形が歪むほどに。

スカートは腰まで捲れ上がり、布がくしゃくしゃに丸まっていた。脚はレヴィの膝で押し開かれ、かかとは浮いて、つま先だけがカーペットに触れている。

ドアが開いた音に、二人はほぼ同時に振り向き――固まった。

レヴィの顔を、驚愕、罪悪感が一瞬よぎり、すぐ怒りに塗り替わる。

「ナタリー! 何しに来た!」

「引き継ぎに来たの」私は努めて淡々と、仕事の声で言う。「私に辞めろって言ったんでしょう。仕事をリリアンに渡したいんじゃないの?」

リリアンは、あろうことか薄く笑った。服を直す気配すらない。両手をつき、わざと挑発するような姿勢を作る。

勝ったと思い込んでいる目。

――これから起きることを、彼女は何も分かっていない。

「実はね」私は穏やかに言った。「あなたが困らないように、移行を手伝いに来たの。部署はかなり複雑よ。覚えること、たくさんある」

視線をレヴィへ移す。彼は慌ててシャツの裾をズボンに押し込んでいた。

「それとも、日を改めたほうがいい? あなたたち、すごく忙しそうだし」

レヴィが歯を食いしばる。

「……1分くれ」

「ええ、もちろん」

私は廊下へ下がり、ぱたんとドアを閉めた。

近くでジュリアンが所在なさげに立っている。顔は真っ赤で、目も泳いでいた。

「ナタリー、本当に申し訳ありません」

「大丈夫よ、ジュリアン」

私は彼に、かすかに笑ってみせた。

「あなたのせいじゃないもの」

数分後、ドアが開く。

先に出てきたのはリリアンだった。服は整えたが、メイクは少し崩れている。なのに、得意げな目で私を見た。

レヴィがその後ろに現れ、わざとらしく表情を無にして言う。

「ナタリー。二人で話せ」

「もちろん」

私はリリアンを見た。

「私のオフィスへ来る? 書類もプロジェクト資料も全部そこにあるの。整理しやすいわ」

リリアンの笑みがさらに広がる。

「あなたのオフィス? ちょうどいいわね。すぐ、私のものになるもの」

「そうね」私はさらりと頷く。「行きましょう」

廊下を歩き出すと、後ろから彼女のハイヒールがカツ、カツ、とついてくる。

私のオフィス。二年かけて作り上げた空間。

ドアを開け、リリアンを招き入れる。

彼女は中へ入るなり、自分の城みたいに歩き回った。指先で私のデスクをなぞり、名札を持ち上げる。

「眺めは悪くないわね」窓の外を見て言う。「でも、内装は変えないと」

私はドアを閉め――カチリ、と鍵をかけた。

偽りの笑顔を脱ぎ捨てる。仮面を外す。

「リリアン。自分が勝ったと思ってるのね。私から全部奪ったって」

私は見下ろすように彼女を見て、声を冷やした。

「でも、あなたが拾ったのは私が捨てたゴミよ。使い古した男をね」

「まあ、可哀想なナタリー」彼女は小さく笑う。優しげな声のくせに、得意さが滲む。「辛いでしょうね。あなたが持ってたものを、私が奪うのを見るのって」

「彼を奪って、いい気分?」私は一歩近づく。「でも現実はね、男を繋ぎ止めるためにセックスが必要な時点で、終わってるのよ」

リリアンの顔が怒りで歪んだ。勢いよく飛びかかり、長い爪が私の顔を狙う。

「嫉妬してるだけよ! レヴィと寝てるのが、あなたじゃなくて私だから!」

私は彼女の手首を掴み――躊躇なく、平手を叩き込んだ。

ぱん、という乾いた音。

彼女がよろけて後退する。社長のビジネスパートナーの娘として、こんな屈辱を受けたことなんてないはずだ。

「このビッチ!」

甲高い悲鳴とともに、また突っ込んでくる。私は足を引っかけた。

ぐきり、とハイヒールが捻れ、彼女は痛みに顔を歪めたまま床へ転がる。

私は腕を掴んで引き起こし、そのまま壁へ叩きつけた。

「さあ、引き継ぎしましょう。あなたに書類を渡す」

そう言って、机の上のファイルを取る。

そして容赦なく、それを彼女の顔に打ち付けた。

「ひっ……!」

私の表情は、彼女の悲鳴より冷たい。

「覚えておいて。もっと若い子とか、都合のいい相手が出てきたら、彼はあなたも私みたいに捨てる」

リリアンの顔が真っ赤になり、言葉が崩れる。

「捨てられるのはあなただけよ! レヴィは私を愛してる! 私を選んだの!」

「愛?」私は薄く笑う。「選んだのは『便利さ』よ。あなたは軽くて、従順で、彼のプライドを刺激しない。だから」

目を血走らせて、彼女が私を睨む。

「自分が私より上だと思ってるの? でも取って代わられたのはあんた! 支配する側にいるのは私! 私は未来のレヴィの妻よ!」

私は静かに言い返す。

「おめでとう。大当たりね。嘘つきで支配欲の塊の男。あなたに忠誠なんて誓わない。あと、あなたには絶対に務まらない仕事」

一拍置いて、言葉を刃にする。

「だって社内の全員が知ってるもの。社長と寝て、その席を手に入れたって」

私はリリアンを放した。

彼女は壁にもたれ、震えながら息を乱す。反論の言葉を探しても、もう見つからない顔だった。

「幸運を祈るわ、リリアン」私は淡々と言う。「全部、台無しにしないようにね」

そう言い残し、私は部屋を出た。

かつて私のオフィスだった場所に、彼女だけを置き去りにして。

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