第83章 彼はずっと黙って想い続けていた

ナタリー視点

コーヒーをひと口すすった瞬間、思いきり気管に入った。そこから三十秒、咳が止まらない。

――どうして今、それを持ち出すの。

エルヴィンが水を注いだグラスを差し出してくる。私はほとんど一息で飲み干し、ようやく呼吸を取り戻した。

「……あの件は。なかったことにしてください」

「俺は自分のしたことに責任を取る」

私は手を振った。

「いえ、いえ、いえ。結構です」

三回も「いえ」を重ねた自分の顔は、たぶん『近づかないで』と書いてあった。

彼の目から光がすっと引く。しばらく私を見つめ、ふっと笑った。

「神経が図太いって言ってたよな。どうやら、そうでもないらしい」

私はグ...

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