第12章 どうしてあの女が好きなのか

どういうわけか、藤堂若葉と接していると、綾瀬悠希はいつも自分の子供のことを思い出してしまう。おそらく、歳が近かったからだろう。

今夜習った曲はリチャード・クレイダーマンの『母への手紙』だった。曲は難しくないが、とても美しい。レッスンが終わると、綾瀬悠希はこれを機に藤堂若葉に彼女の母親について尋ねてみた。

「若葉ちゃん、お母さんに会ったことある?」

「ない」藤堂若葉は首を横に振った。「お母さんには一度も会ったことないの。それに、家ではお母さんの話はしちゃいけないことになってて、話すとパパが怒るんだ」

「そうなんだ。でも、きっと若葉ちゃんのお母さんは、あなたのことをすごく愛していると思う...

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