第129章 相手は全く恩に感じていない

「誰って……綾瀬先生のことですか?」

 楠本和也は寝起き早々、藤堂家の大奥様からの電話を受け、まだ頭が働いていなかった。

「決まってるじゃないか。若葉ちゃんのピアノの先生が、他に何人いると思ってるんだい」

「ああ、綾瀬先生なら……フルネームは綾瀬悠希ですが」

「やっぱり!」

 大奥様は受話器の向こうで飛び上がらんばかりの声を上げた。名前が同じだ。どうやら姓を変えただけらしい。

 先日の綾瀬先生と桜井恵那の様子を見るに、二人の間には浅からぬ因縁があるようだ。その影響で、綾瀬先生は憤りのあまり姓を変えたのかもしれない。

「大奥様、どうしてそんなことを?」

 大奥様は楠本の問いには答え...

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