第64章 国を害する魔性の女

三十分前、藤堂若葉は貯金箱の現金をすべてポシェットに詰め込み、置き手紙を残してこっそりと家を抜け出した。

彼女のスマートウォッチには使いきれないほどのお金が入っているが、スマートウォッチでは居場所が特定されてしまうため、持ってこなかった。

やはり現金の方が安全だ。

家を出るとタクシーを拾い、歓律へ直行した。歓律の入り口に着くと、彼女はためらうことなく百元札を三枚取り出し、運転手に手渡した。

「お釣りは要らないわ」藤堂若葉は気前よく言った。

「ありがとうございます、お嬢ちゃん」

「どういたしまして」

藤堂若葉はご機嫌だった。ドラマではいつもこうだ。嫌なことがあったら外に出て...

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