第85章 君は楽しんでいると言った

「シャツはまだ買えていないんです。手に入り次第、お返しします」

「そのことではない」

 綾瀬悠希は怪訝な顔をした。「では、どのことですか?」

「俺への『埋め合わせ』だ」

 藤堂譲はその言葉を噛み締めるように吐き捨てた。そこには微かな怒気が滲んでいる。

「藤堂さん、後日食事をご馳走させてください。お詫びのしるしとして、いかがでしょう?」

 藤堂譲は冷ややかに笑った。「俺がたかが食事などに飢えているとでも?」

 その言葉に含まれた皮肉を悟り、綾瀬悠希は微笑を崩さずに言った。「藤堂さん、君子は人の愛するものを奪わないと言います。このネックレスは本当に気に入っているんです。どうか、私にい...

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