第35章

捨てられない。もちろん、捨てられるはずがない。

彼が初めて、彼女との婚姻契約を解消しようと決めた――その瞬間から、もう手放せなかったのだ。

後悔している。

だからこそ、いまさらどうして、そんなことを訊くのか。

「離婚なんてしない」

深沢承弦がふいに距離を詰め、彼女の後頭部を掌で押さえ込む。逃げ場を塞ぐみたいに。

「お前が言った。仮定の話はしない、って」

――あの日、彼が「俺と結婚したことを後悔してるか」と問うたのと同じだ。

もしも、なんてない。

もしもがないなら、後悔も、未練も――語りようがない。

末永言葉はわずかに視線を上げた。近すぎる。息の温度まで伝わる距離で、男の瞳...

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