第79章

北川伊季が彼女を口説くつもりなんて、あるはずがない。

あれは――深沢承弦への、露骨な挑発だった。

末永言葉は反射的に一歩退き、くらりとする眩暈に言葉が出ない。壁に手をついて、荒く息を吸うしかなかった。

つわりが、ますますはっきりしてきている。

「……どうした?」

誰の目にも、今の末永言葉がおかしいのは明らかだった。

深沢承弦が肘に触れた、その瞬間。

パシッ、と容赦なく叩き落とされる。

手の甲に走った痛みは、掻きむしるほどでもない。だが承弦の目の奥が、すっと暗く沈んだ。何も言わず、そっと手を引く。

末永言葉は壁に寄りかかったまま、息を整えようとしながら手を振った。

「……大...

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