第90章

彼は末永邸に入りたいだけだ。わざわざ彼女の招待なんて必要なはずがない。なのに、どうしてこんな回りくどいことを言うのだろう。

「私が入れないって言ったら、入らないの?」

少し前、末永言葉も似たような反問をしたばかりだ。

深沢承弦を、彼女は拒めない。

離婚を口にしたのだって、両親が相次いで倒れた――あの衝撃があったからこそ。

普段なら、きっと踏み切れなかった。

けれど「未練」と「離婚」は別問題だ。

情に流されれば、いつの間にか主導権を手放すことになる。

その言葉だけで、深沢承弦は彼女の胸の内をだいたい察した。

――言葉は、俺に帰ってほしくない。

「入れるなって言うなら、おばさ...

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