第98章

半月後、末永言葉は正式に退院した。翌日にはもう、自分のデスクに戻っていた。

会社のビルへ足を踏み入れた瞬間から、視線が次々と突き刺さる。けれど彼女は気にも留めない。

社内で私情は持ち込まない。何より仕事が優先――それが彼女のルールだった。

「深沢承弦」という名前は、いつの間にか彼女の生活における禁句になっていた。周囲が口にしないなら、彼女自身もわざわざ考えない。

それでも、文字として目に入っただけで胸の奥がちくりと痛む。

大げさに泣き崩れるような悲しみではない。

ただ、息が詰まる。

なのにその名前は、容赦なく日常へ紛れ込んでくる。ニュースは彼の動向を追い、最近は佐伯グループと共...

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