第73章 お前が馬鹿か、俺が馬鹿か

「隆一さん、やはりまだ体調が優れないので、先に失礼します。今日はありがとうございました」

 湯川優は松本隆一に深く一礼すると、その場を後にした。

 今日あのような事態になってしまった以上、もう二度と「何もなかった頃」には戻れないと分かっていた。それでも、彼女は心から彼に感謝していた。

 きっぱりと拒絶したことに後悔はない。今ここではっきりさせておかなければ、二人して泥沼に沈んでいくだけなのだから。

 病院を出た湯川優は、ふと途方に暮れた。

 あの屋敷には戻りたくない。だが、そこ以外に行ける場所など、今の自分にはないようにも思えた。

 目的もなく通りを歩いていると、不意に携帯電話が...

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