第110章

 数時間前。荘園の裏口に広がる森の中。

 盗んだ清掃員の制服に身を包んだ久保理沙は、薄暗い灌木の茂みに身を潜めていた。

 手には睡眠薬をたっぷりと染み込ませたハンカチを握りしめ、血走った眼で裏口の扉を死に物狂いで睨みつけている。

 数日前の深夜。収容されていた薬物更生施設で突然火災が発生し、煙が立ち込める大混乱の中でのことだった。

 目深にキャップを被った見知らぬ男が、どさくさに紛れて彼女の鉄格子を開け放ったのだ。

 男は分厚い札束を押し付けると、低い声で耳打ちした。

「高木愛美は、レッドストーン・シティ大学にいる」

 顔こそ見えなかったが、久保理沙はその声に聞き覚えがあった。

 以前、...

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