第167章

 彼女は弾かれたように振り返り、拘束された両手を振り上げた。死に物狂いで抗う覚悟は、とうに決まっている。

 ――その瞬間だった。

 轟音が響き渡った。

 目を射る稲妻が夜空を切り裂き、周囲の暗闇をほんの一瞬だけ白日のように照らし出した。

 愛美は、背後に立つ男の姿をはっきりと捉えた。

 男は着古された灰色のジャケットを羽織っている。

 銃を抜くわけでもなく、彼女に襲いかかる素振りも一切ない。

 ただ静かに、そこに佇んでいた。

 稲妻の青白い光が、その顔を鮮明に浮かび上がらせる。

 深く窪んだ眼窩、高く通った鼻筋、そして鋭く引き締まった顎のライン。

 愛美の瞳孔が限界まで収縮した。

 ...

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