第29章

三人称視点

 高木愛美は俯き、手元の協議書をじっと見つめていた。わざわざ付け足されたその条項が、ひどく目に刺さる。

『婚姻中の不貞行為を認め、彼と南川茜に公開謝罪すること』

 並んだ文字の一つ一つが、ただれきった傷口に塩を擦り込むようだった。

 協議書を握り締める指先に力がこもる。紙の端が、微かに震えていた。

「高木文弘、あなたって人は……本当に最低ね!」

 高木文弘は革張りの椅子に深く背を預け、両手で組んだ指先を顎に当てていた。

「高木愛美、やっぱりな。お前は認めたくないんだろう?」

 彼はゆっくりと立ち上がり、彼女を見下ろした。

「だが、お前が認めない限り、俺達は離婚できない」...

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