第六十九章

三人称視点

 高木文弘は、病院に長居しなかった。

 武田賢人からの入院の勧めを拒絶し、ただ強力な鎮痛剤だけを処方させた。

 廊下の角に身を潜めていた平野綾子の胸中は、極限までかき乱されていた。

 心ここにあらずといった様子で、彼女は病室へと足を踏み入れる。

 愛美はちょうど病院食を口に運んでいるところだった。

 数日前に比べると顔色は随分と良くなり、その頬にはようやく微かな赤みが差している。

 彼女のそばには丸山大翔が寄り添い、優しげな声で語りかけていた。

 その光景は、どこまでも穏やかで美しい。

 平野綾子は伝えようとしていた言葉を、不意に喉の奥へ呑み込んだ。

 真実を知る...

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