第86章

 三人称視点

 紡績工場の火災は鎮火したものの、古川夫人のあとに残されたのは無残な焼け跡だけだった。

 負傷した工員やその家族を慰謝するため、夫人は家に残っていたなけなしの貯金を取り崩した。

 補償の処理を終え、黒焦げになった建屋を前にして、彼女は悟った。

 当面の間、工場は閉鎖せざるを得ないと。

 機械がなければ、収入源は絶たれてしまう。

 疲労困憊の体で屋敷に戻った古川夫人は、高木愛美に電話をかけた。

 その頃、レッドストーン・シティ。

 高木愛美は、四時間にも及ぶ手術を終えたばかりだった。

 手術室から出ると、スマートフォンに古川夫人からの着信履歴があることに気づき、すぐに...

ログインして続きを読む