第1章 糸口
夜になった。
ようやく娘を寝かしつけて、ちょっと一息つくためにTikTokを見ようと思った。
私がやっと一息つけるときだ。
ベッドヘッドに半分もたれかかり、スマホを手に取って、退屈そうにTikTokをスクロールしていた。
ふと、ストリート撮影をライブ配信している画面が私の目を引いた。私は急に体を起こし、画面をじっと見つめたが、その美人配信者はすでにカメラを別の方向に向けていた。
胸がドキドキと鳴り、スマホの画面をスワイプする手のひらには汗がにじんでいた。慌ててカメラの時間表示を確認すると、これはリアルタイム配信で、しかも同じ街だった。
急いでTikTokのページを閉じ、出張で浜町に三日間行っているはずの夫、坂下直樹にビデオ通話をかけた。でも私が今見たのは、同じ街でのライブ配信で映った彼の姿で、しかも腕には女性を抱えていた。
電話はかなり長く鳴ってから、やっと出られた。カメラが二度ほど揺れた後、坂下直樹のハンサムで儒雅な顔が現れた。彼は穏やかな声で画面越しに呼びかけた。「どうした？」
「どこにいるの？」私は問いかけながら、彼のいる場所を見た。レストランの廊下のようで、彼は白いシャツにネクタイ姿だった。
でも先ほどのライブ配信で見た人影はグレーのコートを着ていた。「クライアントと食事中だよ。君の電話に出るために出てきたんだ。どうしたの？何かあった？」彼はさらに尋ねた。「さくらは寝た？」
「浜町にいるの？」私は質問に答えず、追及した。
「もちろんだよ。どうしたの？」彼は真剣に画面越しの私を見つめ、目には疑問が満ちていた。
「あ！なんでも...なんでもないわ！」私は恍惚として返事をし、それから尋ねた。「いつ帰ってくるの？」
「もうすぐだよ...ここの仕事が終わったらすぐに帰る。夫に会いたくなった？」彼は私に微笑み、愛情たっぷりに言った。「できるだけ早く帰るよ。もう遅いから、早く寝なさい、ね？まだ忙しいから、切るね！」
彼は画面越しにキスをして、それからビデオ通話を切った。
私はスマホを握りしめたまましばらく呆然としていた。少し後悔して、自分がなぜこんなに疑り深くなっているのかと責めた。
坂下直樹と言えば、百人に一人の良い夫だった。ハンサムなだけでなく、妻も娘も大切にしている。
私が彼と知り合った頃、彼はまだ貧しい若者だった。J市の出身だが、家庭環境は普通で、病弱な妹がいた。多くの求愛者の中から彼を選んだのは、純粋に私の顔の好みのせいだった。
卒業後、彼のそばにいるために、私は両親の家を担保に融資を受け、彼と一緒に建材会社を起業した。当時彼は仕入れを担当し、私は昼夜問わず顧客回りをして、胃から出血しそうなほど働いた。
幸いにも会社は少しずつ成長し、順調に発展していった。ちょうどその頃、私は妊娠したので仕事を休み、会社を彼に任せ、子育てと家事に専念することにした。
あっという間に娘のさくらも4歳になり、三人家族の日常は豊かで安らかで、多くの人が羨ましがるほどだった。
結婚式は挙げなかったが、彼はそのことをずっと申し訳なく思い、必ず私に良い生活をさせると約束し、私の辛かったことは全て取り戻すと言ってくれていた。
こんな夫が浮気するわけがない。
私は唇をゆがめて笑った。どうやら自分はくだらないドラマを見すぎて、こんな馬鹿げた考えを持つようになったらしい。
ベッドに横たわりながら、TikTokの画面で一瞬見えた人影のことを考えていた。きっと私が坂下直樹に依存しすぎているのだろう。そして最も重要なのは、あのコートがとても見覚えがあったこと。出張前に私が自分の手でアイロンをかけたものだった。
だから、きっとあの男性が私の夫と同じコートを着ていたから、私の目が錯覚を起こしたのだろう。
翌日、坂下直樹は早く帰ってきて、さくらにたくさんのお菓子を買ってきた。
彼は私たちを抱きしめながらキスをし、その雰囲気は本当に温かかった。
私も嬉しくて急いで台所に立ち、彼の好きな料理をいくつか作り、彼をねぎらおうと思った。
食事のために席に着いたとき、坂下直樹は私を見て何気なく言った。「油の匂いがするね。お風呂に入ったら？」
私は気にせず自分の匂いを嗅ぎ、得意げに笑って言った。「これは生活感っていうのよ。人間らしい生活を知らないの？」
彼は愛情たっぷりに笑い、大きな手で私の頭を撫でながら、スペアリブを一切れ私の口に入れ、さらに一切れをさくらの小さな口にも入れた。「そうだね、そうだね、私のハートたち、みんな肉を食べなさい！」
食事の後、私は早めに娘を寝かしつけ、それからお風呂に入り、彼のそばに寄り添って、わざと色っぽく尋ねた。「今でも油の匂いがする？」
坂下直樹は笑いながら、手を伸ばして非常に艶めかしく私をつまんだ。「すごく恋しかったよ！」
そう言うと、私を引き寄せて押し倒した...
今日の彼はいつになく情熱的で、終わった後、彼は浴室に向かった。彼の高い背中を見ながら、私は満足げに微笑んだ。
私も立ち上がってシャワーを浴びようとしたとき、彼がベッドサイドテーブルに置いていたスマホの画面が光り、LINEのメッセージが届いた。ちらりと見た瞬間、私は凍りついた...
