第12章 二人の坂下奥さん

その事務員が「坂下奥さん」と媚びるように呼んだ声を聞いた瞬間、私は雷に打たれたような衝撃を受けた。

振り向くと、全身に怒りが満ちていた。

伊藤香織がどうやって「坂下奥さん」として私の前に現れるのか、見てやろうと思った!

よくも私の身分を騙って、のうのうと歩き回っているものだ!

鋭い視線で後ろを振り返ると、予想していた伊藤香織ではなく、坂下あゆみの姿があった。

坂下あゆみはおしゃれに着飾り、派手な服装で、亜麻色の長い髪を波打つ大きなカールにして肩に流していた。顔には精巧で艶やかなメイクが施され、もともとそれほどでもなかった容姿に妖艶さが加わっていた。

坂下あゆみは優雅に歩み寄り、余...

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