第6章 また一人の坂下奥さん

坂下建材が光輝ビルに引っ越してから、私が行ったのはたった一度だけ。それも引っ越したばかりの頃で、坂下直樹が連れて行ってくれたの。フロア丸ごと一つを借り切って、とても立派で特別な達成感があった。

あの日、彼は私を抱きしめて、彼のオフィスの床から天井まである窓の前に立ち、深い愛情を込めて言ったわ。「ありがとう!真美!帆を上げる資本をくれて、違った人生を与えてくれて!信じてくれ、そう遠くない将来、このビルを君にプレゼントするよ」

私はちょっと皮肉な笑みを浮かべた。今、彼はこの全てを自らの手で引き裂こうとしている。

ビルに入ると、受付の美人さんが何階に行くのか、誰に会うのかと尋ねてきた。

坂...

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