第9章 災いは重なる

私は苦く笑い、ただ「いいよ」と一言だけ言って、電話を切った。

今の伊藤香織は私の目には完全な泥棒猫に見えた。私の前では親身になって自分の価値を見出すべきだと諭しておきながら、今では夫の前で私のことを「暇な人」と嘲笑う。本当に人の心は測り知れない。

なるほど、彼女が坂下直樹を見かけたと言って私を試そうとしたのも、今考えれば明らかに後ろめたさからだった。あの夜、坂下直樹も私に「伊藤香織とはずいぶん会っていない」と言ったのに。

騙されていたという感覚に胸が引き裂かれる。この見知らぬ街で、私が心を開いて信頼していた二人が、こんなにも堂々と私を欺いていたなんて。もう誰を信じればいいのか分からなく...

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