第97章

私にとっては、彼に与える最後のチャンスのつもりだった。もし今、すべてを正直に打ち明けてくれたなら──たとえ許すことはできなくても、まだ幾分かの情状酌量の余地は残しておいただろう。けれど、坂下直樹はまたしても私の期待を裏切った。

 彼は考える素振りさえ見せず、即座に首を横に振った。

「ないよ、そんなの。妊娠中だからって考えすぎなんじゃないか? そんなふうだと、僕の仕事にも差し障るんだけどな」

 逆ギレ……とでも言うつもり?

 目の前の男に、私は心の底から失望していた。こう言ってはなんだけど、坂下直樹はあのエレベーターで会った老人以下だ。あの老人の行状は恥ずべきものだけれど、少なくとも「...

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