第20章

長川貞也は思案に沈んだ。瞳には感情の揺れが一欠片もなく、ただ薄い倦怠だけが滲んでいる。

二十数年、波風ひとつない人生だった。――それが最近、妙に面白くなってきた。

「長川様?」

鈴木青の声が、思考の糸をぷつりと断ち切る。

「言え」

「奥様の件です。海外からお戻りになりましたが、長川様に連絡がつかないそうで、会社のほうへお電話が入りました。明日は……奥様の七十歳のお誕生日です」

長川貞也は小さく頷いた。

「そうか。折り返しておけ」

「奥様が……」鈴木青は言いよどみ、困ったように眉を寄せる。「『折り返しはいらない。明日、若奥様を連れて――橋野悠希を連れて帰ってきなさい』と」

長...

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