第56章

「いや、結構です。今後この酒は全部ここで保管することになります。温度が基準に達していないと、かえって味を壊す。だから冷蔵室は必ず確認します」

太田平人はこの瞬間、橋野悠希と長川貞也の表情を直視する勇気がなかった。ただ額の汗を何度も拭うばかりだ。

長川貞也が目を細める。

「……何だ。お前、入られるのが怖いのか」

その一言に太田平人は肩をびくりと震わせ、逆らえるはずもなく従った。

「こ、こちらへ……」

先頭を歩く足取りはおぼつかない。まるで薄氷の上でも踏んでいるかのように、戦々恐々としている。

ほどなく二人は冷蔵室の前に着いた。

外の醸造ラインとは、空気そのものが別世界だ。酒を冷...

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