第169章 森川汐里の苦労

森川汐里は唇の端を吊り上げ、どこか愉しげに笑った。

胸の奥から、報復めいた快感がじわりと湧き上がる。

卑劣だと、自分でも分かっている。

けれど彼女は知っているのだ。四年前、小野雨音がまさにこうやって隙を縫い、藤原由真との間に楔を打ち込んできたことを。誤解を誘う言葉を、わざと選んで。

愛した人に裏切られたときの味。

あの苦さは、今も舌の奥に残っている。

ならば――巡り合わせが変わった今、どうしてこの「犯人」を楽にさせてやれる?

『森川汐里! あんた、このクズ! 帰国したのは私に復讐するためでしょ! 由真に言ってやる、あんたがどんな人間か!』

受話器の向こうで、小野雨音が怒り狂っ...

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