第49章 仇敵の娘

森川汐里は少し驚いて振り返った。どうして急に話しかけてくるのかも分からないし、しかもこんな切り出し方だなんて。

林田丈志は彼女の考えを見透かしたように、ただ薄く笑う。

「緊張なさらなくて結構です。ふと思い出したんです。私が藤原家のことを取り仕切るようになってから、きちんとご挨拶できていなかったな、と」

「……いいです。どうせ私は、いずれ彼の元妻になるだけですし。挨拶なんて必要ありません」

林田丈志とは接点こそ多くない。だが汐里にも分かる。あの男は、腹の底が見えない――年季の入った狐だ。

こういう相手に対して汐里ができるのは、できるだけ自分から触れないこと。

底知れない人物ほど、言...

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