第50章 わざとじゃない

彼は深く考えるのが怖かった。疑うこともできなかった。今の自分の心は、脆くて、もう何ひとつ波立たせる力すら残っていない。

けれど、だからこそ余計に落ち着かない。

水面に漂う浮き草みたいに、ただ流されるだけで、どこにも根を下ろせない――そんな感覚だった。

仕事帰りの車内。藤原由真は後部座席に沈み込み、相変わらず陰のある顔をしていた。

小野雨音がちらりと横目で彼を見る。表情の曇りに気づいたはずなのに、彼女の口元は勝手に持ち上がった。

無意識の信頼を向けられるのは、悪くない。

むしろ――いい気分だ。

家に戻っても、藤原由真は席に着いたまま、ほとんど口を開かずに食事を続けた。

森川汐里...

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