第77章 人違い

彼女は一流の心理カウンセラーで、人の心を操る術にかけては右に出る者がいない。

――それでも、どれだけ手を尽くしても、藤原由真だけは手に入らなかった。

小野雨音は小さく息を吐く。唇の端には、どこか愉しむような弧が浮かんでいた。

男は彼女の首筋に顔を埋めたまま、離れようとしない。ベッドへ引きずっていきたいのに、男女の力の差は歴然で、身動きが取れなかった。

「由真……先にベッドに戻ろ? ね?」

甘いほど柔らかな声。

自分でも気づかないまま、口元の笑みは一度も消えていない。

「……だめ。だめだよ、汐里。行かないで」

藤原由真が、何かをぶつぶつと呟く。

小野雨音の笑顔が、ぴたりと固ま...

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