第1章

雨の夜、ベッドの上。

一糸まとわぬ二つの肢体が、死に物狂いで絡み合う。

男の荒々しい息遣いと女の恥じらうような嬌声が交錯し、静寂に包まれた深夜、その音色は一際妖艶に響いていた。

細切れに漏れる喘ぎ声の中、早乙女珠妃の白く華奢な指が男の首筋に絡みつく。

彼女の呼応を感じ取ったのか、男は獣のような唸り声を上げ、大粒の汗が早乙女珠妃の肌へと滴り落ちた。

どれほどの時が過ぎただろうか。ようやく室内に静寂が戻る。

微睡みの中、早乙女珠妃の指先に冷たい感触が伝わり、耳元で男の理性を抑えた、それでいて蠱惑的な囁きが聞こえた。

「待っていてくれ……必ず、妻に迎える……」

今夜の春夢はとりわけ騒々しい。

煩わしさに耐えかねた早乙女珠妃は、男に向かって勢いよく平手打ちを繰り出した。

パァン! という乾いた音が響く。

早乙女珠妃が目を開けると、自分の掌が精神病院の木下院長の頭に見事にヒットしているのが見えた。

木下院長はつるりと禿げ上がった頭をさすりながら、怒るに怒れず言葉を絞り出す。

「早乙女さん、そろそろお帰りの時間ですよ」

早乙女珠妃は一瞬呆気にとられたが、すぐに思い出した。今日、早乙女家から迎えが来ることになっていたのだ。

のろのろと起き上がると、彼女の数少ない荷物はすでに几帳面に梱包されていた。

木下院長の慈愛(という名の厄介払い)に満ちた眼差しに見送られ、早乙女珠妃は精神病院の門をくぐる。

行った、行った、ついに出て行ったぞ!

彼女の背後では、木下院長と大勢の医療スタッフたちが抱き合い、嬉し泣きに暮れていた。

神のみぞ知るだ。三年前、この女が来て以来、彼らの生活がいかに水深火熱の地獄であったかを。

この女、頭の回転が速いだけでなく身のこなしも俊敏で、口八丁手八丁に加え、その拳であっという間に院内の患者たちを完全に掌握してしまったのだ。

患者たちも奇妙なもので、精神に異常をきたしているはずなのに、なぜか示し合わせたように早乙女家のこの女の言うことだけは聞き、あろうことか主客転倒して医療スタッフを管理し始める始末。

言うことを聞かない? 構わない、一発殴ればいい。

勝てない? 構わない、チームを組んで闇討ちだ。

医者が頭から袋を被せられて殴られたかと思えば、看護師が目隠しをされて叩かれる。

数年にわたる知恵と力の攻防の末、結果として医療スタッフ側が完全に制圧されてしまったのだ。

精神病院のスタッフが精神病患者に管理されているなどと、誰が信じるだろうか?

しかし、それは紛れもない現実として彼らの身に降りかかっていた。だが幸いなことに、苦難の日々はついに終わりを告げたのだ。

「ボス……」

一人が声を上げると、院内からは一斉に「ボス」を呼ぶ声が響き渡り、その騒々しさは雨後の蛙の合唱のようだった。

叫び声と共に、木の枝や窓から無数の頭が突き出し、早乙女珠妃に向かって必死に手を振っている。

「ボス、絶対に戻ってきてくれよー!」

さらにエコーまでかかって聞こえてくる。

「戻ってきて……戻ってきて……」

木下院長とスタッフたちの顔色が瞬時に土気色に変わった。

早乙女珠妃は背中に向かって無造作に手を振る。

「みんな、戻れ!」

するとどうだ。木の上や窓辺の人影は瞬時に消え失せ、院内はまるで無人であるかのように静まり返った。

木下院長の顔はさらに黒ずみ、彼は歯ぎしりしながら命じた。

「よく見ておれ! あの人が去ったら、すぐに大門を施錠するんだ!」

早乙女珠妃が門を一歩踏み出すや否や、背後でカチャンという乾いた閉門音が響き、続けて鍵をかける音が聞こえた。

彼女は眉をひそめて振り返ろうとしたが、視線の先の道路に一台のスーパーカーが停まっているのに気づく。

燃えるような赤髪の宇野火恋が、ふてぶてしく車体に寄りかかっていた。

彼女が出てくるのを見るや、宇野火恋は目を輝かせ、その派手な赤髪をなびかせながら数歩で目の前まで跳ねてくる。

「姉さん! やっと出てくる気になったのね!」

その大袈裟な表情を見て、早乙女珠妃の無表情な顔に微かな笑みが浮かぶ。

「どうしてここへ?」

宇野火恋は両手を広げ、首を振りながら答えた。

「そりゃあ、あんたを迎えに来たに決まってるでしょ」

「行こうか」

「あ、ちょっと待って……」

そう言うと、宇野火恋は車から真新しいドレスを取り出し、得意げに言った。

「AGの最新春モデルよ。手に入れるのに大金を叩いたんだから」

早乙女珠妃はちらりと一瞥し、口を開く。

「世界限定二着。悪くないセンスだ」

そう言って身を翻し車内に乗り込む。取り残された宇野火恋は一瞬呆気にとられたが、すぐに追いかけて尋ねた。

「このブランド知ってるの?」

早乙女珠妃はその問いには答えず、指で前方を示した。

「早乙女家の連中が首を長くして待ってるわ」

その話題が出ると、宇野火恋は一気に興味津々といった様子を見せる。

「了解、しっかり掴まってて!」

アクセルを一踏みすると、車は爆音を轟かせながら猛スピードで駆け出した。

道中、宇野火恋は機関銃のように喋り続けた。

「あんたに頼まれてた天宮家の長男、天宮徳臣の資料だけど、手に入れたわよ。ただ、あの人あまりにも謎が多くて、役に立つ情報は少なかったわ」

そう言ってタブレットを手渡す。

「全部ここに入ってるから、見てみて」

確かに資料は少なかった。有用なのはただ一つ、天宮徳臣という人物が足が不自由であるということだけ。

早乙女珠妃は独り言のように呟く。

「どうりでこんな良い話が私に回ってくるわけだ。足なえだったのね」

宇野火恋は激しく頷く。

「そうなのよ。それでも嫁ぐ気?」

早乙女珠妃は答えず、平らな下腹部に手を当てた。

三年前、彼女は父親によって田舎から呼び戻されて間もなく、何者かに薬を盛られ、見知らぬ男に純潔を奪われた挙句、身籠ってしまった。

子供を産んだ後、継母の唆しを受けた父親によって、早乙女グループ傘下の精神病院に強制入院させられ、そのまま三年の月日が流れた。

この三年間、彼女はずっと薬を盛られた真相と、我が子の行方を探し続けてきた。しかし、得られる情報はいつも「産まれた子供は死産だった」というものばかり。

だが彼女は鮮明に覚えている。出産して意識を失う直前、確かに赤ん坊の泣き声を聞いたのだ。

彼女は信じている。あの子は生きている、ただ行方が分からないだけだと。

つい数日前、彼女は当時出産に立ち会った医師が、かつて天宮家に出入りしていたことを突き止めた。

彼女は手首につけた、母が残した唯一の遺品を撫でる。この天宮家への嫁入り、受けて立つ。だが嫁ぐ前に、まずは早乙女家に戻って母と自分のために少しばかり利子を回収しなければならない。

早乙女家。

早乙女楽己は不安げに部屋の中を行ったり来たりしていた。

「ママ、あの女、本当に嫁ぐと思う? もし断ったら、パパは私に無理やり嫁げって言うんじゃないかしら?」

早乙女楽己は話すうちに恐怖が募り、頭を抱えて泣き叫んだ。

「嫌よ! あんな死に損ないの足なえに嫁ぐなんて!」

「この子ったら、何を言ってるの」

白井秋葉は小声で慰める。

「安心なさい。お母さんには、あの女をおとなしく身代わりにさせる手段がいくらでもあるわ」

早乙女楽己は顔を上げ、哀れっぽく尋ねる。

「本当に?」

白井秋葉は頷いた。

「お母さんがいつあなたに嘘をついた? 忘れないで、あの女がどうやって精神病院に入れられたかを」

そうだ。あの時はママの賢明な判断のおかげで、あの女が戻ってきて足場を固める前に、早々に準備を整えて処分できたのだ。

そうでなければ、家の財産を争う人間がまた一人増えるところだった。

そう思うと、早乙女楽己は胸を撫で下ろした。

「ありがとう、ママ」

「おや、何がそんなに嬉しいのかしら。私にも聞かせてよ」

背後から声が響き、白井秋葉が振り返ると、いつの間にかリビングに早乙女珠妃が立っていた。

白井秋葉は心臓が止まるほど驚いたが、すぐに顔をしかめて言った。

「礼儀知らずね。帰ってきたなら使用人に知らせさせなさいよ」

「鳩が鵲の巣を占拠したような後妻風情に、私が報告? 身の程知らずもいいところね」

早乙女珠妃は眉を上げて言い放った。

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