第109章

酔眼のふらつく視界の中、一人の女の顔が天宮徳臣の目の前で揺れていた。

天宮徳臣はうわ言のように呟く。

「お前……」

「少し水を飲んで」

女の口から紡がれる優しい声。それは聞き覚えのある声で、天宮徳臣は無意識に手を伸ばし、彼女の腕を掴んだ。

低くしゃがれたその声には、どこか拗ねたような響きが混じる。

「早乙女珠妃……」

その様子を見た坂東院長は一瞬呆気にとられたが、すぐに手を振って看護師たちを下がらせた。

「若奥様、若様の点滴の針にお気をつけください」

そう言い残し、坂東院長も部屋を後にする。

室内に二人きりになると、早乙女珠妃はようやく天宮徳臣の手指を一本一本引き剥がしに...

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