第4章

早乙女家が娘を嫁がせる際、彼らは法外な要求を突きつけてきた。十億の結納金に加え、天宮グループの広告独占代理権までも求めたのだ。

この権利一つだけで、早乙女家には毎年十億単位の利益が転がり込むことになる。

当初、ある高名な僧侶が「早乙女家の娘は徳臣の回復を助ける」と予言していなければ、天宮大奥様はこの縁談に同意などしなかっただろう。

だが今となっては、この小娘は本当に「貴人」であるようだ。一手で徳臣の病を抑え込み、その医術は木下院長をも凌ぐという。これは思いがけない拾い物だ。

あんな端金が、徳臣の命と比べられるものか!

そう考えた大奥様は即座に命じた。

「法務部に連絡して、契約書を今すぐ早乙女家に送らせなさい」

「まさか、本当に早乙女家に渡すおつもりですか?」

土井千影の声が思わず高くなる。

大奥様は目をむいた。

「天宮家が約束を破るような真似ができるかい。今すぐ手配するんだ」

土井千影は呆気にとられた。自分の言葉で義母の早乙女家に対する怒りを煽れると思っていたのに、藪蛇になってしまった。

腹の虫が収まらず、彼女は天宮北斗を忌々しげに睨みつけることしかできない。

板挟みになった北斗は、どちらにも頭が上がらず、携帯電話を手に取って電話をかけるふりをして部屋を出て行った。

大奥様は珠妃の腕を軽く叩いた。

「いい子だ、安心おし。早乙女家が約束通りお前を嫁がせた以上、天宮家は決してお前を粗末にはしないよ」

早乙女家が身代わりの件を天宮家に伝えていないと見て取った珠妃は、口を開いた。

「大奥様、一つ訂正させていただきたいことがあります。私の名は早乙女珠妃、早乙女楽己の姉です」

その言葉に、大奥様の表情が曇った。

「どういうことだね……」

傍らの土井千影が金切り声を上げて遮った。

「えっ! 早乙女家の娘は一人っ子のはずでしょう? あなたはどこから湧いてきたのよ!」

「私の母は父の最初の妻です。私と楽己は異母姉妹になります」

珠妃は淡々と説明した。

「なんですって! 早乙女家の連中、いい度胸ね。すり替えを行うなんて!」

土井千影は色めき立った。この女を追い出す口実を探していたところに、絶好のチャンスが転がり込んできたのだ。

ちょうど北斗が電話を終えて戻ってきたところで、千影は珠妃を指差して言った。

「あなた、この女は楽己じゃないわよ。早乙女家が私たちを騙したの!」

北斗は合点がいった。

「やっぱりおかしいと思ったんだ! 俺が調べた早乙女家の娘は胸大無脳(胸が大きくて脳みそがない)の花瓶だったのに、今日来たのが医術を使えるなんて変だと思ったぜ」

調子に乗って喋っていると、不意に腰を千影に強くつねられた。

「痛ぇっ!」

北斗は悲鳴を上げた。

「お前、なんでまたつねるんだよ! 俺は嘘なんて言ってないぞ、あの早乙女家の娘は確かに……」

北斗が振り返ると、母親が冷ややかな目で自分を見つめているのに気づき、慌てて口をつぐんだ。

「母さん、そんな目で見ないでくれよ。あの早乙女家の娘がダメなのは本当なんだ。母さんがどうしても嫁がせるって言うから……俺のせいじゃないぞ」

「お前たちは黙っておいで!」

大奥様は珠妃を見て尋ねた。

「早乙女珠妃、お前はこの縁談についてどう思っているんだい?」

珠妃は表情を変えずに答えた。

「天宮家に嫁ぐことに異存はありません」

「天宮家を何だと思ってるんだ。野良犬や野良猫みたいに勝手に入り込める場所じゃないぞ。お前が良くても、こっちは願い下げだ!」

北斗が嗤う。

またしても口を挟む北斗に、大奥様は杖を床に叩きつけて怒鳴った。

「黙れと言っているんだ! これ以上口を利くなら出てお行き!」

北斗は縮み上がって黙り込んだ。

大奥様は珠妃に向き直った。

「よし、お前が良いと言うなら、私が責任を持ってここに置こう。だが一つ条件がある。徳臣の世話をしっかりとしておくれ」

「はい、大奥様」

珠妃は素直に応じた。

「まだ大奥様と呼ぶのかい?」

珠妃は一瞬戸惑い、探るように言った。

「おばあ様……」

「ああ、よしよし。今日からお前は天宮家の孫嫁だ。もし誰かがお前をいじめるようなことがあれば、おばあちゃんに言いなさい。私が味方になってやるからね!」

そう言うと大奥様は背後の使用人に合図を送った。控えていた使用人がすぐに宝石箱を持ってきて開けると、中には一揃いの見事な宝石が輝いていた。

それを見て、土井千影の目に嫉妬の色が浮かぶ。

このセットは英国王室由来のもので、かつて誰かが九桁の金額を提示しても、義母は手放そうとしなかった品だ。

まさか、早乙女家のこの女に贈るつもりなのか?

大奥様は宝石箱を珠妃の前に押しやった。

「これはおばあちゃんからの対面の印だよ。受け取っておきなさい。これからはここを自分の家だと思うんだよ」

「ありがとうございます、おばあ様」

珠妃が本当に受け取るのを見て、千影は居ても立ってもいられず、北斗に目配せをした。

北斗は即座に反対した。

「母さん、それはダメだ!」

大奥様は目をむいた。

「この子にあげないで、お前の嫁にやるとでも言うのかい?」

「それもいい!」

その言葉に大奥様が再び怒り出しそうになると、北斗は慌てて釈明した。

「母さん、そういう意味じゃないんだ。母さんが早乙女楽己を選んだのは、彼女の八字が……いや、とにかくこいつは楽己じゃないんだぞ」

「お黙り!」

大奥様は怒りを露わにした。

「どうすべきかは私が決める」

「私がこの孫嫁を認めた以上、彼女は天宮家の人間だ!」

大奥様は執事に命じた。

「皆に伝えなさい。今日から珠妃様は天宮家の孫嫁だ。粗相のないように仕えるようにと」

執事は恭しく頭を下げた。

「かしこまりました」

大奥様は珠妃に言った。

「後で誰かに屋敷の中を案内させよう」

「ありがとうございます、おばあ様」

彼女が驕らず焦らず、礼儀をわきまえているのを見て、大奥様は大いに満足した。

身代わりだろうと何だろうと、これは天の配剤かもしれない。

母親が決めてしまった以上、北斗は小声で「軽率すぎるだろ……」と呟くことしかできなかった。

千影は内心で血を吐く思いだった。長い時間をかけて障害を取り除き、徳臣も再起不能になりかけていたというのに、また新たな女が邪魔に入るとは!

入ったからどうだと言うの。天宮家は誰でもいられる場所じゃないわ!

彼女は怒りを押し殺し、立ち上がって珠妃の前に歩み寄ると、にこやかに言った。

「珠妃さん、私は徳臣の叔母の千影よ。歓迎するわ」

珠妃は軽く会釈した。

「叔母様、こんにちは」

千影は口元で笑みを作った。

「今日は準備不足で、対面の品を用意していなくてごめんなさいね。日を改めて必ず埋め合わせをするわ」

「叔母様、お気遣いなく」

珠妃は答えた。

「大奥様、奥様、徳臣様がお目覚めです」

使用人が告げた。

大奥様は急いで二階の徳臣の寝室へ向かった。見れば、彼はすでに上半身を起こしていた。

大奥様は安堵した。

「徳臣、どこか具合の悪いところはないかい?」

徳臣は首を横に振り、珠妃に視線を向けた。彼女の長い髪が揺れるのを見て、先ほど彼女が銀針でマスティフを制した鮮やかな手並みを思い出す。

鷹のような鋭い眼光で彼女を品定めし、言った。

「君が早乙女家の娘か?」

傍らの北斗がすかさず口を挟む。

「徳臣、こいつは偽物だ。あの時の早乙女家の娘じゃない。早乙女家の連中がすり替えやがったんだ!」

その言葉に、徳臣の瞳孔が収縮し、瞳の奥に鋭い光が走った。

「ふん、早乙女家もいい度胸だ!」

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